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担当者の現場レポート


第23回「トイレの間口を広げる住宅改修」
(担当:松本)


今回の現場レポートは、松本がお送りします。

高齢者の住宅改修には、お住まいの方の思い入れもあり、ご家族の思いがなかなか一つにまとまらず大変なことも多くあります。
今回はそんな事例として、東京都世田谷区にお住まいのOさん宅のトイレ改修事例についてご報告します。
既に二人の娘さんは嫁がれていて、Oさんとご主人は築35年の木造1戸建てにお二人でお住まいです。夕食は配食サービスを利用してはいますが、家事全般とOさんの介助はすべてご主人がしています。

 

【改修の経緯】

脳血管障害を患っているOさんの身体状況は、室外は車いす使用、室内は夫の介助によりなんとか両手を引いてもらいながらトイレまで歩いていましたが、ここ最近は、何度か廊下などで転倒し、めがねの縁で顔を切るなど、室内歩行も困難になってきていました。また、このところ主治医からも室内も車いすを使うよう指示を受けていました。
そこで、かねてからお考えだったトイレを和便器から洋便器に取り替えつつ、さらに車いすでも使えるトイレにする必要が出てきました。

 

【改修のためのバリア】

ところが、そうするためには、二つの大きな『バリア=壁』がありました。一つはトイレのスペースが狭く、このままでは便器の近くまで車いすではいかれない点、そしてもう一つは同居者であるご主人が、とりあえず今の和式便器を洋式にする工事だけで十分であり、車いすでトイレ室内まで入ることができるようにするなんて大掛かりな工事は必要ないというお考えだった点です。もともと和式の汽車便を洋式便器に替える工事を行うおつもりで、扉を取り替えることすら視野にはなかったのですから無理もありません。

 

【改修提案】

実際にOさん宅のトイレを車椅子でも使えるようにするために、私共でご提案したのは、トイレ入口を廊下の位置でアウトセットの引戸にし、浴室入口の手前に上吊用レールで引き込むというものでした。ただし、トイレの間口をそのままではせっかく引戸にしても、廊下の幅は780oしかありませんから、車いすが曲がって入っていくことは出来ません。そこで、思いきって洋室側の壁をずらし、トイレの有効スペースを間口約1,200oにするという案(改修案2)をご提案いたしました。

ところがご主人にご説明したところ、「いや、あの壁を壊すことは出来ない。せっかくの部屋が狭くなってしまうし、なにより、その間仕切壁にある作り付けの飾り棚にはゴルフの優勝楯があるし、・・・」と、ご理解いただくことは難しく、トイレの広さは今のままで十分、引き戸にするだけでよい(改修案1)とのことでした。

<現況図>
現況図

<改修案 (1)>
改修案1
<改修案 (2)>
改修案2

 


【ご家族の思い、そして決断へ】

一方、Oさんご本人や二人の娘さんとケアマネージャーは、その先のことも見据えた改修にしなくては意味がないこと、介助者であるご主人にとっても楽に安心して生活できるようになる点など、意見が一致しご理解、納得していただけましたので、あとはなんとかご主人にも解ってもらいたいと、約1ヶ月にわたり毎土曜日の午後、皆で集まり、ご主人とお話をする機会を持ちました。

いよいよ、今週の集まりでお話が進まないようなら、Oさん宅の改修は難しいかもしれないと半ばあきらめの境地で集まった土曜の午後、ご主人から「それでお願いします。」とおっしゃっていただいた時には、私たち女性陣は、みな胸をなでおろす思いでした。


【工事開始】

実際工事が始まってみると、半柱が天井裏で2階の梁を受けているなど予想外のこともありましたが、柱の付替えをするなど大工工事で対応し、無事4日間で工事を終えることが出来ました。

 

* * * 改修のポイント * * *
既存の壁位置をずらすことにより、トイレの間口を1,200mm確保し、便器近くまで車いすでいけるようにした。
トイレ入口の建具は、浴室前へ引き込むアウトセットにすることにより、脇に壁がなくても引き戸に取替えることができた。
間口が広いトイレなので、便器を片側の壁から芯で350mmに寄せ、逆側は可動式手すりを設置し、体幹のバランスが保持できるようにした。


改修前

改修前
改修前
改修前

改修後

改修後
改修後
改修後


* * * 工期・費用 * * *
【工期】
5日間
【費用】
87万円(諸経費、消費税別途)
  内 介護保険利用  180,000円
  内 設備改修助成費  95,400円

【改修を終えて】

改修後ご訪問した時に、ご主人の「いやぁ、トイレが広いっていうのはいいねぇ」と、かみしめるようにおっしゃった一言が、今でも私の心に響いています。住み慣れたお宅を改修することは、ご高齢の方でなくてもいろいろと抵抗があるものでしょう。その抵抗を乗越えて、私たちの意見を聞きいれていただき、工事をさせてくれたご主人に深く感謝しています。そしてあきらめずにお話くださった娘さんたち、ケアマネージャー、そして奥様のご協力もまた今回の改修に欠かせないものでした。
私たち建築従事者はただ、今できることを提案するのではなく、その先を見据えた暮らし方を提案し、それをご理解いただくことがいかに大切かあらためて思い知らされた改修でした。




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